不安を抱える夜




月のきらめきと星の瞬きが、街を照らす深夜。
それでも室内は、カーテンを引いてしまえば光は届かず、暗闇に支配される。
その闇を裂くように響く音で、ロイは眠りの淵から呼び戻された。
眠りから覚めきらぬままに電話へと向かい、鳴り響き続ける電話のベルに顔を顰めて溜息をつくと、受話器へと手を伸ばした。

「はい」

眠りを邪魔された憤りと、寝起きのせいで普段より幾分低いロイの声。

「・・・あっ・・・・ロイ?」
「エドか?」
「・・・うん」

受話器から聞こえた、ためらいがちな声に、ロイの胸に愛しさと、何かあったのだろうかという不安が込み上げる。

「どうかしたのか?」
「・・・」

やはり様子がおかしい、不安ばかりが増していく。

「エド、何かあったのか?」

出来るだけ優しく問い掛ければ、エドワードの呟くような小さな声がこたえた。

「あのさ・・・今から行っていいか?」
「・・・」

思いも掛けない言葉にロイは固まった。

「ダメか?」
「いや、かまわないが・・・どこにいるんだ?」

連絡ではイーストシティに着くのは明日のはずだ。

「・・・家のそば」
「はぁ?」
「・・・ロイの家の・・」

エドワードの言葉が終わる前に、ロイは家を飛び出していた。
道にでると、すぐそばに見える電話ボックスにエドワードがいた。
ロイはエドワードの前まで来ると腕を掴まえて、お互い無言のまま家へと戻った。

ロイはリビングのソファにエドワードを座らせると、キッチンへと行きヤカンを火に掛ける。
リビングに目をやれば、エドワードが身動ぎもせずに俯いて座っていた。
内心で溜息をついて、紅茶を淹れるとリビングに戻りエドワードの前にカップを置いた。

「飲みなさい」

微笑んでエドワードに紅茶を勧め、自分もカップを手に取る。

「・・・なんで?」
「なんだね?」
「なんで何も言わないんだ?」
「ん?あぁ、おかえり」
「そうじゃなくて!文句とか聞きたいこととか無いのかよ!」
「聞きたいことはあるが、文句はないよ」
「・・・ごめん」
「謝る必要はない。むしろ嬉しいよ、どんな理由であれ会いに来てくれたのだからね」

ロイの優しい微笑みに、エドワードが泣きそうな顔になる。

「エド?」

ロイはエドワードの側まで来ると、頬を手で撫でた。
エドワードは俯くと小さな声で呟く。

「・・・夜中に目が覚めて・・真っ暗でさ・・・一人取り残されたみたいで・・そしたらロイに・・・・会いたくなって・・・ごめん」

ロイは俯いたままのエドワードを抱き締めて、金の髪に口づけた。

「謝る必要はないと言っただろう。それに君は一人ではない、私がいるよ」

ロイの手が優しくエドワードの髪を撫でると、エドワードが背中に腕を回した。


不安な夜でも、この温もりがあれば朝を迎えられる。
また歩き出せる・・・



あとがき
微妙な終わり方になってしまいました。




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