わずかに零れた心1




その日訪れた東方司令部は、ごく局地的に春だった。

「よっ!大将、元気だったか?」

扉を開けたまま、戸口で固まっているエドワードとアルフォンスに、ハボックが陽気に声を掛けた。

「あぁ・・・」

曖昧な返事を返すエドワードを気にも止めず、鼻歌混じりで書類に向かっている。
回りを見れば皆一様に疲れた顔をしていた。

「ハボック少尉、何かあったんですか?」

まだ呆然と立ち尽くしているエドワードの変わりに、アルフォンスがホークアイに訪ねた。
ホークアイは溜息をつくと、呆れた様に言った。

「彼女が出来たらしいの」
「はぁ?」

ホークアイの言葉に、エドワードが間抜けな声をあげた。

「それにしても・・・浮かれ過ぎじゃないですか?」
「大佐よりあなたの方が素敵ですって言われたらしいわ」

再びハボックを見る。相変わらず楽しそうに仕事をしていた。

「まぁ・・・仕事は捗ってるみたいだけど」
「ハボック少尉の仕事はね」

ホークアイが溜息をついた。
エドワードが問うように視線を向けると、困ったように笑う。

「皆に惚気るものだから、他が捗らないの」

呆れた顔でハボックを見ていると、仕事に区切りがついたのかエドワード達へと近付いてくる。

「変な顔してどうした?」
「大佐に報告書だすのに楽しいと思う?」

少尉に呆れてんだよ!と内心で思いつつ、何でもないように返した。
エドワードの心中に気付く事もなく、ハボックは尚も話続ける。

「そりゃ楽しくないわな」
「だろ?」
「恋すりゃ楽しくなるぜ」
「そんなもん、してる暇あるわけないだろ」
「いやいや、忙しい時ほど心の潤いになるってもんだ」
「そんなもんかね〜」

興味もなさそうなエドワードにハボックがニヤッと笑う。
「ひょっとして、恋した事ねーのか?」

ハボックの目が、お子様だな〜っと言っていた。
それにエドワードがムキにならないばずもなく。

「オレだって好きな人くらいいるわー!」
「好きな人いるのか」

ハボックが意地の悪い笑みを浮かべた。
それを見て我に返り慌てて口を塞さぐが、すでに遅くハボックの質問責めに合う事になってしまった。

「で、誰だ?可愛い子か?年は?何処に住んでんだ?ひょっとして、俺の知ってる娘か?」

エドワードはうろたえ、顔を真っ赤にして視線を泳がせる。

「いや〜大将にもそう言う相手がいるんだな」

気付けば回りの視線が集中していて、興味津津の顔で見ていた。

「どんな娘だよ」
「・・・」

なんとか落ち着きをとりもどしたエドワードは、無言でハボックを睨み付けた。
しかし、春を謳歌しているハボックは気にも止めない。

「いいじゃないかよ、教えろよ」
「嫌だね」
「そんな事言わずに教えろって」
「嫌だ」

そんな中、ロイが会議から戻って来た。
室内の異様な状態に面食らう。

「大佐、お疲れさまです」

ロイに気付いたホークアイが声を掛けた。

「あぁ・・・何かあったのか?」
「ハボック少尉がエドワード君に好きな人を聞いているんです」

溜息混じりのホークアイの言葉に、エドワードを見ればハボックにいい様にからかわれている。

「鋼の」
「大佐」

声を掛ければ、逃げ道を見つけたとばかりにエドワードが近寄って来た。

「久しぶりだな、報告か?」
「そう」
「では、執務室の方で聞こうか」
「わかった」

そのまま二人は執務室へ移動しっていった。



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